みなさん、こんにちは。
7月に入ってすぐに聞こえ始めた夏の音。
そう、それはセミの声。
存在を主張することで生命をつないでいくオスたち。
それは婚活であり、優秀な種を保存するための「成虫の嗜み」であるといえるでしょう。
昔から不思議だったことがあります。
セミは成虫になってからの生存期間は短いのに、幼虫として地下生活する期間が長く、3~17年もあるということ。例えば、アブラゼミは平均して6年間、地面の下で過ごすそうです。
その長期にわたる栄養を、セミはどのように摂取しているのでしょうか?
土の中で生きる幼虫は、長い口吻(こうふん)を木の根の「導管」と呼ばれる部分に差し込み、そこから「樹液」を吸って成長します。
成虫は、木の「師管」から高栄養の樹液を吸うのに対し、幼虫は「導管」から低栄養の樹液を吸うのです。それはなぜでしょう?
調べてみると、セミの幼虫の成長に時間がかかる理由として、以下の2つが考えられていました。
1.導管液はアミノ酸が微量であり、低栄養のため成長に時間がかかる
2.自らを低栄養にすることで成長を遅延させ、異常気象や山火事、天敵、伝染病などの環境の急速な変化から受ける影響を回避するため
成長速度をコントロールするためにアミノ酸の摂取を制限しているとしたら、セミは種を保存する機能に長けた、すごい昆虫ということになります。
また、幼虫に高栄養を与えるとどうなるか?も調べてみました。
ほっ。
巨大化はしないそうです。
今後も巨大化したセミとの遭遇は避けられそうで、安心しました。
わたしは、第4回国際食品由来ペプチド学術研究学会(IACFP)に参加して、ひとつの疑問を持ちました。それは、『日本は豊かな国と言われ、健診や予防接種、健康教育などが盛んで健康志向が高い国民であるのに、ペプチドに関する開発や消費に勢いがみられない』ということです。
その理由について、東京大学大学院医学研究科の客員研究員で、サラヤ株式会社の吉田智さんが、健康産業新聞社のインタビューで語られた内容から考えてみました。
Q.ペプチドに関しては中国が先頭を走っていると言われているが。
中国が一番進んでいると思う。日本はまだ遅れている。 昔の栄養学の弊害だと考えている。いままで、タンパク質が吸収されるには、アミノ酸になるまで吸収されない、とされていた。つまりペプチドのままでは吸収されないという考えが根強く残っている。 確かに、教科書にはジペプチドおよびトリペプチドが吸収されることは書いており、有識者であれば、トランスポーターによって吸収されることを認識している。しかし、教育する側が昔のままの栄養学をそのまま引きずってしまっている場合も多い。この背景には、早く吸収することのメリットを分かっていない、ということと、ジペプチドやトリペプチドそのものに機能性があるということをまだ認識していない、ということがある。 |
Q.中国がリードする形になっている理由について。
中国は経験的にペプチドの機能性に気が付いていたが、ここにきて、機序を探るようになっている。つまり、世界ではエビデンスを求められるのが当然なので、国が総力を挙げてエビデンスを作っている、というのが現状だ。 日本で販売されている商品で、「アミノ酸」とうたわれているもののいくつかにはペプチドが含まれている。ただ、ペプチドはまだよく認知されていないため、「アミノ酸」という言い方になっている。 |
また、同インタビューで、前橋工科大学の准教授の薩秀夫准さんは次のように語られました。
Q.なぜ中国がペプチド分野においてはリードしているのか?
今見学中のペプチド生産施設も半官半民の会社と聞いているが、やはり国が資本を出して研究をしているというのは大きいと思う。 もともと基礎的な研究で日本には優れたものがあるが、資本的な点で見れば、日本では大学の研究費が削られているということもあり、なかなか大規模での研究というのは展開できない。 その点、中国のペプチド研究と言うのは、国のバックアップが十分あるという点が強みだ。日本もそのあたりの資本がしっかりとあれば、中国に追いつくというのは可能だと考えている。 |
つまり、日本でペプチドにおける課題は、
1.栄養を教える人達の認識が、正しい根拠に基づいて刷新されていないこと
2.ペプチドの認知度が低いこと
3.国を挙げてペプチドの研究に取り組んでおらず、資本面で中国に遅れを取っていること
などと言えます。
研究学会で出会った研究者の健康志向は高く、企業はペプチドの必要性を理解してその機能研究と製品開発に取り組んでおられました。
日本は、生活習慣病によって障がいを持つ方が増加しています。
ペプチドに着目して栄養価が上がり、日本国民の健康が長期的に維持・促進されるようになったら?
栄養価をコントロールして、種を長期的に繁栄させているセミのように。
それは、ひとりの人間の健康寿命を延長させるだけでなく、人間社会の豊かさに繋がります。
それでは。
みなさんの栄養が正しく選択され、巨大化することなく(笑)、健康課題の解決に近づく一日となりますように。
研究員 前原なおみ