「第二回 食品由来ペプチドの機能及び応用学術交流会」
講演内容説明(4)
■コーンペプチドが肝細胞死/肝硬変分子機構に及ぼす影響
小嶋 聡一 教授
独立行政法人理化学研究所
アルコール過剰摂取は全世界で年間200万人の死亡原因となっている。その進行は、脂肪肝の状態から、肝細胞死、炎化を伴う肝障害、肝硬変、肝癌と移行して死亡に至る。分子機構としては、活性酸素の上昇や多数のシグナル伝達の変化が報告されているが、肝細胞死の分子機構は不明であった。
当研究所はタンパク質架橋酵素トランスグルタミナーゼファミリー中のTG2を介した肝細胞死の分子機構を解明した。簡単に言うと下記のステップになる。
ステップ1.アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドが肝細胞に働くと、通常細胞質に存在するTG2が細胞核に移動する。
ステップ2.細胞核に移行したTG2が、肝細胞増殖因子受容体c-Metの遺伝子発現をつかさどる転写因子Sp1を過度に架橋結合させ、不活化する。
ステップ3.その結果、肝細胞の生存に不可欠なc-Metの発現量が低下することにより、肝細胞が死に至る。
この研究成果は、米国の科学雑誌『Gastroenterology』(2009年5月1日号)に掲載され、メカニズム図は同雑誌の表紙を飾った。
後の研究により、TG2を介した肝細胞死は高カロリー摂取原因の脂肪肝の主な機序でもあり、がん細胞の増殖にも関わっていることがわかった。
TG2を介した肝細胞死の分子機構(TG2分子機構)に対する影響をもって、肝臓保護作用のある薬物や機能食品を評価することができると考えられる。
一方、コーンオリゴペプチドはとうもろこしのタンパク質を酵素による加水分解によって得た混合オリゴペプチドである。平均分子量が500Da以下であることにより、ジペプチド及びトリペプチドの含有量が50%以上であることが推測される。
このコーンオリゴペプチドにはアルコール分解促進及び肝機能保護効果があることが多数報告されているため、その機序を解明すべく、TG2分子機構で検証することになった。
●結果:
実験は現時点ではまだパイロットの段階であるが、提供された製法の異なる4種類のコーンオリゴペプチドのうち、2種類がTG2の細胞核への移動および核内TG2架橋結合活性に対してそれぞれ抑制結果を示した。
●考査:
コーンオリゴペプチドのTG2分子機構に及ぼす影響は大変興味深い結果を見せているが、次のいくつかのことを考慮し、研究を継続するべきと考えられる。
1.パイロット実験で示した結果を再検証すること。
2.TG2分子機構のほかの二つのステップ(Sp1の架橋結合とc-Met発現量減少)に対する抑制作用を検討する。また、ステップ間に因果関連があるため、分離したうえでの検討が必要である。
3.コーンオリゴペプチドは混合ペプチドであるため、ペプチドシークエンスを含む活性本体の分子構造解明、及び主なペプチド断片の含有量分析をもとに、活性本体のターゲットシークエンスを特定する必要がある。